海外では当たり前になっている、ストリーミング放送。
ようやく日本でも実現しそうだ。国内民放がAM放送と同時にインターネット放送でも聞けるようになるわけだ。
ネット後進国の日本が少しは進歩するのだろうか。TBSラジオ、ニッポン放送、文化放送、エフエム東京、J-WAVE、InterFMの在京キー局6社と、朝日放送、毎日放送、エフエム大阪など在阪の準キー局6社、短波の日経ラジオ社の合計13社が、3月からはじめる。
当面は今の誰も聞かないデジタル放送同様、大阪、首都圏になるとか。IPアドレスでアクセスを規制するようだ。
大手民放ラジオ13社、ネット同時放送解禁へ(2月12日日系ビジネスONLINEから)
3月から変わるラジオ局 NHKは地方はどう動く?
2月上旬、NHKのラジオセンターに衝撃が走った。
「どうやら民放が、ネットでのサイマルに踏み切るらしい」「何だそれ、聞いてないぞ」――。
マスメディア産業の一角が、ついに生き残りをかけて、民放局が重い腰を上げた。受信料で成り立つNHKと民放とでは、それだけ危機感に雲泥の開きがあるということだ。
AM、FM、短波の大手民放ラジオ局13社は、3月中旬から、地上波と同じ放送内容をインターネットでもサイマル(同時)送信することを決めた。日本音楽著作権協会(JASRAC)や日本レコード協会といった権利団体とも合意を得た。間もなく正式発表される。
パソコンなどから「RADIKO(ラジコ)」のウェブサイトにアクセスすれば、無料で地上波と同じラジオ放送を聴けるようになる。ただし、アクセス元のIPアドレスから住所を類推する仕組みを用いて、当面は首都圏と大阪府の利用者に限定する。
大手放送局が、地上波と同一の放送を、同時に通信回線経由で再送信する本格的な取り組みは、国内初。1925年のラジオ放送開始から85年、「通信と放送の融合」が極まった。
地上波に手を加えない、事実上の「ネット解禁」
ネットでの同時送信に踏み切るのは、TBSラジオ、ニッポン放送、文化放送、エフエム東京、J-WAVE、エフエムインターウェーヴ(InterFM)の在京キー局6社と、朝日放送、毎日放送、エフエム大阪など在阪の準キー局6社、加えて短波の日経ラジオ社の合計13社。
民放各社は昨年12月、共同でインフラ整備や権利処理にあたるための組織「IPサイマルラジオ協議会」を発足し、準備を進めていた。
「ネットで聞けるラジオ」は、今年3月から半年を試験期間とし、9月から本格運用とする模様。試験期間とはいえ登録は不要で、特別なソフトも必要としない。配信方式は「Adobe Flash Player」を選んだ。
地上波から数秒の遅れが生じるため、各社とも「時報」はカットすると見られ、権利処理が相当に困難なオリンピックやサッカーのワールドカップなど一部のスポーツ中継は、別番組に差し替えるなどの対応を取るようだ。
だが、それ以外は原則、各局ともに地上波の放送内容に手を加えず、すべての番組、CMを再送信する方針。事実上の「ネット解禁」となる。
経営環境悪化で大手の足並み揃う
これまでもニッポン放送やJ-WAVE、エフエム東京など一部放送局が、パソコンやモバイル端末に向けた地上波放送の再送信を試みていた。だが、期間や聴取者の人数を限定したり、権利処理ができない番組やコーナー、音楽、CMなどをカットして再編成したりするなど、試行の域を出なかった。
海外では既に始まっているラジオ放送のネット同時送信。日本でも事態が大きく動いたのは、受信環境と経営環境の悪化に窮する大手各社の思惑が一致し、足並みが揃ったからだ。
ネットへのシフトを進めた場合、電波の聴取者が減ったり、広告に影響が及んだりする可能性があり、大手各社は二の足を踏んでいた。だが、大手ラジオ局関係者は「都市化で受信障害が増え、ラジオ受信機そのものも減っている。聴取者と広告費の減少が止まらず、いよいよ食えなくなってきた」と漏らす。
一方で、「Twitter(ツイッター)」などのソーシャルメディアでは、テレビやラジオの話題で盛り上がることが多く、ネットと放送の相性が良いことが分かってきた。
特に若年層は、ネットに接触する時間が年々伸びており、欧米ではネットでの同時送信を機に、ラジオ局の聴取者が反転して増えているという調査結果もある。
同時送信が可能になれば、放送しているサイトへのリンクを張ってツイッターなどからユーザーを誘導することも可能だ。また、通販サイトや、楽曲の販売サイトなどへリンクを張り、放送中の商品や楽曲の購入を促すといった、新たなビジネスモデルも模索できる。
家庭や職場などからは、ラジオチューナーが消えつつあり、物理的に不利な状況となっていた。が、コンテンツの質が大きく落ちているわけではない。「出るところへ出れば、それなりの需要と収益を見込める」との思惑が、徐々に業界内に浸透した。
大手民放を取りまとめた陰の功労者
大手各社がネット放送に保守的だった理由として、「電波利権」をどう守っていくかという問題との兼ね合いもあったようだ。
だが今回、「都市部の難聴取を解消するための実証実験」という大義名分を前面に押し出しながら、ネット時代の新たな聴取者獲得への橋頭堡を築くという道を歩むことで、各局は一致した。
民放各社の合意が進んだ背景には、各局を取り持つ形で協議会の事務局を買って出た電通の存在もある。広告を取り次ぐ電通は、ラジオの媒体力低下とともに沈むのではなく、ラジオ局に聴取者を拡大してもらい、再び広告媒体としての価値を高めてもらう方向へと業界を誘いたかった。
ラジオ広告費は91年の約2400億円をピークに、2008年の約1550億円まで減少している。今年に入っても広告量は前年割れが続いており、電通としても、最も痛んでいるマスメディアの再興は急務だった。
コミュニティFMは4年前から同時送信を実現
同時送信が実現しない理由として、音楽著作権者や出演者、広告主との交渉が困難である、という「建前」もあった。
だが、経営基盤が弱いコミュニティFM各局は既に、2006年から徒党を組んでJASRACと交渉、音楽も含めたネット同時送信を実現させている。この点について、前出とは別の関係者は「要は大手各社の足並みが揃わず、前向きにもならなかっただけ」と斬る。
ところが電通が音頭をとり、足並みは一気に揃った。そうなると、権利団体も軟化せざるを得ない。音楽関連だけでなく、CMの権利を持つ日本広告業協会や大手芸能事務所などとも、スムーズに合意が取れたようだ。
業界が一丸となり、「ラジオ復権」に向けて動き出した民放各社。ただし、前途洋々というわけにはいかない。多くの解決すべき課題が、取り残されている。
まず、放送業界のドン、NHKをどう扱うのか、といった問題がある。2月に入ってから情報を嗅ぎつけたNHKは、即座に対応を協議しているようだが、未だに方針は固まっていないと見られる。
ある協議会の関係者は「NHKさんが仲間に入りたいというなら断る理由はない」と話すが、出し抜かれた格好のNHKが素直に仲間に入るとは思えず、時間がかかりそうだ。
モバイル端末の扱いも課題として残る。ラジオメディアこそモバイルの需要は高いはず。だが、当初は、パソコン向けのサービスとして始め、携帯電話などのモバイル端末には対応しないという。ラジオ局の免許はエリアごとに与えられており、地域をまたぐ聴取の扱いをどうするのか、議論が必要だからだ。
パソコン向けでも聴取可能地域は当初、在京局は首都圏の1都3県に、在阪局は大阪府に限定される。この制限は、存在意義を問われかねない地方系列局の反発を阻止する狙いもある。協議会は、順次、地方局にも参加を呼びかけ、各局の放送エリアに限定して、ネットの同時送信を実現してもらう方向で考えているようだ。
聴取可能地域の制限は、内輪の論理
だが、ユーザー側の視点に立てば、日本のどこにいようが、好きな放送局を選べる方が便利なことは明白。旅行先や転出先で、慣れ親しんだ地元のラジオ放送を聴きたいというニーズもあるはずだ。聴取可能地域の制限は、内輪の論理に過ぎない。
実際、一足早くネットの同時送信を実現させたコミュニティFM各局は、聴取可能地域を制限していない。コミュニティFMのポータルサイト「サイマルラジオ」では、日本全国のコミュニティFMを、誰でもどこにいても聴くことができる。
例え、ネットの同時送信で地域制限がなくなったとしても、地方の系列局は、地元地域に根ざした独自番組を増やすなどして勝負すればよい。そうした経営努力で、より地元密着のコンテンツが増えるのであれば、地域のリスナーも喜んで聴いてくれるだろう。
キー局と地方系列局の摩擦もさることながら、キー局同士が波の壁を越え、さらに新興のネット放送局とも同じ土俵に乗ることで、より競争が激化することも予想される。
マスメディアの一角が動いた事実は、大きな一歩
これまでラジオ各局は、電波区分の違いで、棲み分けを図ってきた。だが、ネットに区分はない。免許を持つ優位性もない。フラットな条件でリスナーを奪い合う以上、これまで以上にコンテンツ力の強化を迫られる可能性がある。
ただ、改革に痛みや努力はつきもの。多くの業界が情報革命に対峙し、リストラや組織改編などをしながら、市場に体を合わせてきた。
その中で、大きく変わらずにいたマスメディアの一角が、さまざまな課題を孕みながらも動いたという事実は、大きな一歩と言える。