2017年12月26日

曽我ひとみさんのコメント

毎日北朝鮮向け放送の受信状態をチェックしていることから、今日12月26日のトップニュースはこれしかないだろう。NHKはラジオ、テレビでもこのコメントを伝えていた。
12月11日、夫のチャールズ・ジェンキンスさん死去を受け、曽我ひとみさんが26日、新潟県佐渡市役所を通じ発表したコメントの全文は以下の通り。

 この度は、夫の死去に対しまして関係者並びに生前をご存じの方たちにはご心配をおかけしました。突然の訃報に驚かれたことと思います。私達家族もいまだ亡くなったという現実を受け入れるには、もう少し時間をかけなければという思いで日々を過ごしています。
 今、やっと少し考える時間が取れるようになり、夫との出会いから今日に至るまでを思い返しています。思えば、夫とは37年前北朝鮮の地で出会い、結婚し、子供が生まれ、苦楽を共にし何とか家族としての形を作り上げてきました。出会った当初私は、いまだ北朝鮮の生活に慣れず、現地の人を警戒している時期でした。そんな中で彼との出会いは、あまり多くの時間を要することはできなかったのですが、信用するに値する行動と誠意を示してくれました。
 結婚後、2人の娘にも恵まれ、生活水準は厳しい物でしたが、生来の器用さで生活に必要な物を工夫して様々な物を作り出してくれました。ベッド、椅子、おもちゃの車などを作ってくれました。特に車のおもちゃは、自信作だったのか娘たちを乗せてよく遊んでいた姿を思い出します。また、夫のバイク好きは日本でも周知の事ですが、北に居た時は、あまりにもバイクに乗りたい思いが募り、どこからか廃車寸前のバイクを持って来て修理を始めてしまいました。いつの間にか使えそうなパーツを集め、ネジや細かい部品は工場まで出かけていき自分の思うとおりに加工してもらって、ついに動くバイクを作ってしまいました。これには、さすがに私も娘たちもあきれ返るしかありませんでした。でも、バイクのエンジンがかかり動くことが確認できたときの夫の何とも嬉しそうな、今でいうところのドヤ顔を忘れることはないでしょう。
 北での生活は言わずもがな、紆余曲折ありました。それでも、家族4人大きな病気もなく過ごせたことは、一番の幸せだったのではないでしょうか。その中で15年前、私が拉致被害者であることが確定し、日本に一時帰国することが決まりました。それには、夫の後押しがあったから実現できたのだと思っています。日本へ帰りたい思いを一番理解してくれていたのが夫でした。一人で帰国することをためらう私に「君は日本に行くべきだ」と背中を押してくれたのです。あの言葉があったから今、日本で生活することができるのだと言っても過言ではないでしょう。今思い返しても、彼の決断にとても感謝しています。
 その後は、皆さんもご存じのとおり、彼の処遇問題で日本に家族を呼び寄せるのに2年近くの時間を要しましたが、インドネシアで再会し家族との話し合いを重ね、私の意見を尊重し日本にくることに同意してくれたのです。
 日本に来てからも様々なことがありました。でも、その度に家族で話し合い、支え合いながら努力してきました。佐渡に永住することを決めてから13年、夫なりに一生懸命に生きてきたのだと思います。日本語が出来ないハンデがあっても仕事だけはずっと続けてきました。きっと、私や娘たちには想像も出来ない事も多々あったでしょう。けれど、接客業ということもあり、嫌な顔もせずお客さまの要望に応えていたと聞いています。笑顔でエールを送ってくれるお客さまとのふれあいは、言葉が分からなくても嬉しい時間だったのではないでしょうか。北朝鮮で苦労しながら過ごした40年を日本で暮らす13年で上書き出来たのではないかと思っています。
 とにかく、前触れなく突然亡くなったので、気が付けば葬儀が終わって、事後処理に追われ今日まできてしまいました。今いくつか後悔していることがあります。大好きなチーズをもっとたくさん色んな種類の物を食べさせてあげたかった。仕事を理由に2人でゆっくり話す時間を設けなかったこと、夫も話したいことがたくさんあっただろうと思います。今さらですが一言謝らせてください。本当にごめんなさい。それから、私の母に会わせてあげたかった。奇しくも今月28日は母の誕生日が来ます。以前から母の誕生日前後は憂鬱になるというのに、夫の亡くなった月も12月とは、更に気分が落ち込んでしまいそうです。
 それでも、日々は過ぎてゆき、また明日が来ます。これから私と娘の2人暮らしが始まります。力を合わせ、互いに支えあいながらお世話になった方たちに感謝しながら生きていきます。どうか、私達2人を見守っていてください。今までありがとうございました。そして、77年の人生お疲れ様でした。ゆっくり休んでください。

 平成29年12月25日 曽我ひとみ


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