8月18日付の産経新聞記事から。
北朝鮮有事に備え「24時間生放送」準備 ラジオ「しおかぜ」北の妨害は低調も「資金難」に
朝鮮半島で軍事的緊張が高まる中、北朝鮮の拉致問題を調べている「特定失踪者問題調査会」(荒木和博代表)が有事に備え、24時間態勢のラジオ生放送の準備を完了したことが分かった。民間で緊急時にこうした放送を行うのは同会だけといい、北朝鮮国内に捕らわれた拉致被害者らに向けて情勢をリアルタイムに伝え、安全確保と避難手段などを伝える方針だ。
同会は北朝鮮向けラジオ「しおかぜ」を運営し、政府認定拉致被害者や拉致の可能性を排除できない特定失踪者への呼びかけ、北朝鮮関連のニュースなどを放送。北朝鮮が核・ミサイル開発を加速させ米朝間の緊張が高まった4月以降は、北朝鮮のミサイル発射や米軍の動向を伝える緊急警戒放送を始め、被害者に安全確保を訴えてきた。
ただ、放送は深夜帯を中心にした3時間半に限られ、有事には不十分と判断。茨城県内の送信施設の使用権を持つNHKと協議し、放送に必要な国の免許について総務省と調整した結果、24時間生放送を実施する態勢が整ったという。
生放送を行う局面を迎えれば、メンテナンスの休止時間を除き、拉致被害者に向けて最新の情勢や避難場所など安全確保の方法を継続的に伝える。
特定失踪者問題調査会は平成17年に「しおかぜ」の短波放送を開始。28年には北朝鮮内で多くの人が聞くとされる中波放送も始めた。番組は日本語、朝鮮語、英語、中国語で制作。拉致被害者を励まし支援するとともに、厳格な報道統制を敷く北朝鮮を揺さぶろうと独裁の実態なども伝えてきた。
最近では国際社会に衝撃を与えた金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、正男(ジョンナム)氏の暗殺なども放送。北朝鮮当局はしおかぜを注視しており、妨害電波を執拗(しつよう)に発射し、内容を否定する公式放送を流すこともあった。
こうした中で昨年以降、妨害電波の頻度が激減し時間短縮も顕著になった。原因は不明だが、北朝鮮国内で電力供給が低下し、継続的な電波の発射が困難になっているとの分析がある。
さらに、送信設備の整備が行き届くしおかぜ側に対し、北朝鮮側が妨害電波を発信する設備は出力が低く老朽化しているとみられ、電波の出力に優れたしおかぜへの悪影響は皆無だ。
同会が北朝鮮国境近くの韓国で行っているモニタリングでは、しおかぜの短波放送の受信感度は極めて良好で、脱北者も「北朝鮮で聞いていた」と証言した。
粘り強い取り組みの成果が見える一方、一般有志の援助などをもとに手弁当で運営するしおかぜには、資金難の壁が立ちはだかる。
短波と中波の放送は1カ月当たり約350万円の運営費が必要で、中波放送は開始後3カ月で一時休止。日本最大の産業別労働組合「UAゼンセン」などの支援で今年4月に再開したものの、10月以降の放送継続が非常に厳しい見通しとなっている。
番組制作を担当する同会の村尾建兒(たつる)専務理事は「被害者の救出と拉致問題の啓発に向けて、さらに内容を充実させていきたい」と支援を呼びかけている。